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那覇家庭裁判所コザ支部 昭和49年(家イ)182号 審判 1975年1月07日

申立人 国籍 アメリカ合衆国カルホルニヤ州

住所 同州

アイリーン・ユル・マーフィー(仮名)

相手方 国籍 申立人に同じ

住所 沖縄県頭郡

エドワード・コリン・マーフィー(仮名)

主文

申立人は相手方と離婚する。

理由

申立人は主文同旨の調停を求め、申立の要旨は、

申立人と相手方は一九七〇年一〇月三〇日アメリカ合衆国カルホルニヤ州において婚姻し、二年目位から性格の相違から夫婦仲が悪くなり、一九七三年五月相手方は米国軍人として沖繩に進駐し申立人もその後に来沖し、相手方の肩書地で同居した。相手方は沖繩勤務になつてから、家庭に落ちつかず特定の女性と不貞行為を継続し、そのうち申立人との同居を拒み、一九七三年九月申立人を無理押しに帰国させ以後申立人は肩書地に居住しているが、相手方は申立人に対し生活費も支給してくれずこれは本国州法の離婚原因である悪意の遺棄に該当する。以上の次第で申立人と相手方は将来婚姻を継続することは不可能であるから離婚の調停を求める、というのである。相手方審問の結果によると、相手方は申立人の主張事実を全部認め、申立人との離婚に合意し、なお、相手方は肩書地において一年位前から米国人マドレーヌ・グリンバーグと婚姻の約束で同棲しているので是非、当裁判所の審判で申立人との離婚を決定されたい旨を陳述した。

申立人は昭和四九年一二月二三日午前一一時三〇分開催の調停期日には旅費がなくまた、生活の都合などを理由に出頭せず、代理人弁護士比嘉正憲が出頭した。(カルホルニヤ州インビリヤル郡公証人ウィリアム・ジェームス認証の同弁護士に対する代理委任状提出)しかし本件は事件の性質上(形成的身分行為)代理による調停は相当でないと解し、結局本件調停は成立するに至らなかつた。なお、本調停に現われた一切の事情を斟酌し、本件を調停不成立で終ることなく、本件当事者の意向を尊重し家事審判法第二四条に従い審判で本件を解決するのが相当であると思料する。そこで本件渉外離婚事件におけるわが国裁判所の裁判権の有無について考えるに、家事渉外事件も他の渉外事件と同じくわが国の家庭裁判所の裁判管轄権の分配の問題については明文の規定もなくてその解決は条理に委ねられ困難な問題として、学説判例も多岐にわたつている。そして前記事実のごとく当事者双方がアメリカ合衆国人で夫婦異住所の場合、いわゆる住所地国の裁判管轄権を認める場合における住所をいずれの住所に認めるかについても異論のあるところであるが、判例(最判昭和三七年(オ)四四九号、昭和三九・三・二五)並びに多数説は相手方当事者が日本に住所を有し且つ、わが国の家庭裁判所に事件が申立てされたときはわが国に国際的裁判管轄権があると解している。そして、右の手続法上の意味での住所はわが国際民事(人事)訴訟法上または、国際非訟事件手続法上からその住所の概念を定めるがこれを本件についてみるに本件申立及び相手方審問の結果によると相手方は一九五三年五月米国陸軍特技軍曹として日本に進駐し現に肩書地(沖繩県中頭郡読合村字高志保住民住宅地域内)に居住して事務に従事している外国軍人であるから右の居住事情では相手方はわが国に永続的定住の事実があるとは云えず、従つてわが国内に管轄権を承認する住所を有するとは認め難い。ところで、家事渉外離婚事件は非訟性を基調とする(家事)事件の性質から、訴訟性を前提としないで、国際的私法生活における紛争を正義、公平且つ、効果的に解決すると云う国際非訟事件手続法上の理念に添つた考え方から管轄理論をたてるのが相当であると考える。そこで、国際非訟事件手続法上は、調停制度の本質や、家事審判規則(第四条但書、第一二九条)の規定などから推論して合意または応訴による国際的裁判管轄権の発生が認められるものと解する。そこで本件事件の経過及び認定事実によると、相手方は米国軍人として少くともわが国に居住を有し、当事者双方は本件離婚について積極的にわが国の家庭裁判所で(国内的管轄権については当裁判所)審理を行う旨合意があり、相手方は応訴したことが認められる。従つて、本件離婚の申立てについてはわが国の裁判所にその裁判権があると解する。次に、法例第一六条、第二七条三項によれば本件離婚については、その原因事実発生当時における夫たる相手方の本国法たるアメリカ合衆国カルホルニヤ州法及び日本民法を適用すべきところ、前記認定の事実は同州法中の離婚原因とされている。「極度な虐待」「悪意の遺棄」に該当し、また、日本民法第七七〇条一項五号の「婚姻を継続しがたい重大な事由あるとき」に該当するので本件離婚は適法である。

よつて家事審判法第二四条により当事者双方のため衡平に考慮し一切の事情をみて主文のとおり審判する。

(家事審判官 片岡禅教)

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